【感想】始まりの魔法使いは悲しくも美しい物語

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かんたん評価

オススメ度:★★★☆☆

  • こんな作品

  • ありもしない神秘の探求に人生を費やし生涯を終えた男は、まさかの竜に生まれ変わることに。
    ところがその世界はまだ文明の無い原始の時代であった。
    悠久の時を生きる竜となった男は、人類に言葉を教え、地球の文化を伝え、文明を築き上げていく傍ら、まだ誰も解き明かしていなかった魔法の理を少しずつ解明していく。
    やがて人々は彼のことを、始まりの魔法使いと呼ぶように…。



  • 作品の特徴

  • ・独特でよく練られた設定と世界観
    ・切なくて、でも面白いストーリー
    ・無双シーンはほとんどない
    ・物語の起伏が乏しい
    ・1巻冒頭は初見置いてけぼりかも



    以下、極力ネタバレは避けますが全くないわけではないのでご注意を。

    こんな作品

    あらすじ

    かつて神話の時代に、ひとりの魔術師がいました。彼は、“先生”と呼ばれ、言葉と文化を伝え、魔法を教えました。そんな彼を人々はこう呼びました。―始まりの魔法使い、と。そんな大層な存在ではないのだが―「だから火を吹かないで!」「ごめんごめん。私にとってはただの息だからさ」竜として転生した“私”は、エルフの少女・ニナとともに、この世界の魔法の理を解き明かすべく、魔法学校を建てることにした。そこで“私”は、初めての人間の生徒・アイと運命の出会いを果たした―。これは、永き時を生きる竜の魔法使いが、魔術や、国や、歴史を創りあげる、ファンタジークロニクル。

    簡単に言うと、魔法があるファンタジー世界で、原始時代から文明開拓を行っていくお話です。


    現代知識を持った人間が文明開拓をしていくというと単純な内政チートものを思い浮かべるかもしれません。

    ところが、この舞台は異世界。
    人間以外にもエルフやリザードマンなど様々な生物が生息しているし、物理法則も地球と違っていたりとなかなか思うようにいきません。


    果たして彼の作り上げていく世界はどうなっていくのか。
    そして悠久の時を生きる竜と短命の人がどのように関わっていくのか。


    ここが面白い

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    世界観や設定がよく練られている

    テンプレのような世界観というのはそれはそれで読者が理解しやすいことから一定の魅力があります。
    なんでもかんでも独自の世界にしちゃうと、理解するために大量のリソースが割かれちゃいますからね。


    そんな中でこの作品は、独自の異世界を練り上げながらもすんなりと理解しやすいものとなっています。

    というのも、この世界のことを知らないのは主人公も同じ。
    日本人の常識で色々と試していく主人公ですが、その過程で思いもよらない世界の法則を体験していくことになります。

    分かりやすいところだと呪文の詠唱。
    「炎よ」と唱えるだけでも火が出てきますが、本作では詠唱が長ければ長いほど強力になっていくという特徴があります。

    面白いのが、決まった呪文があるわけではなく、本人がイメージした魔法に意味のある言葉を重ねていくことで効果を高めるというところです。
    それこそ歌のような魔法ほど強力になっていくということです。


    こんな感じでこの世界は“未知”で溢れているため、ついつい一般常識で見てしまいがちな世界に意外な一面があったりと変わった世界観に楽しませてもらえます。

    こうした発見をしていくことが、主人公が『始まりの魔法使い』と呼ばれる所以だったりも。

    竜と人が紡ぐ物語

    主人公が寿命が無いに等しい竜という存在であるがために時の流れが非常に早く、10年20年ぽんぽん進みます。
    というか場合によっては100年200年飛びます。


    そんな時の流れが早い本作ですが、それでも個人個人との関わりは濃密で、原始人のような生活を行っていたキャラクターが徐々に生活レベルを上げて成長していく様は読んでいてい非常に楽しいです。


    しかし、当然ながら竜と人とでは生きる速度が違いすぎます。
    当然ながら親しかった人との別れは避けられません。

    次々と移り変わっていく世代に対して、主人公はどう付き合っていくのか。
    それが本作の主題の一つであると思います。

    ここがちょっと気になる

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    1巻冒頭の展開についていけない

    この作品の冒頭は『始まりの魔法使い』という物語のエピローグ的なところから始まります。
    唐突に始まる6人の女の子たちによる日常会話。
    そこで繰り広げられる風景は現代日本と同じでありながら、女の子たちの特徴はファンタジーめいたものとなんだかちぐはぐな感じ。

    この光景は主人公が文明を開拓した後の平和な世界というものを表現しているのだと思われます。

    が、


    いきなり女の子6人現れてもわかるかーい!


    っていうね。
    イラスト無しでサラッと一言で紹介されても全く頭に入ってきません。
    しかも、このキャラクター達が物語に重要なのかと思いきや、1巻に出てくるのはこのうちのエルフのニーナたった一人という。

    2巻3巻と読み進めていくと、彼女らの正体がだんだんと判明してくるのですが…。
    ぶっちゃけこのエピローグっぽいプロローグいらないよね。
    これがあるせいで冒頭からいきなり置いてけぼりをくらった感じがして、先を読む気が削がれましたもん。

    総評

    冒頭10ページにおよぶ意味のわからない展開さえどうにか乗り越えれば、なかなかに面白い作品だと思います。

    笑いあり、驚きあり、感動あり、そして涙ありと色々な感情を湧き起こしてくれる珍しい作品。
    どちらかというと悲しい展開なので、センチな気分になりたい時なんかは特にオススメかも。