【感想】痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います。は防御特化の皮を被った無双物語

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かんたん評価

オススメ度:★☆☆☆☆

  • こんな作品

  • 「防御力を上げれば痛みが減る」
    新しく始めたVRMMOゲームでこの情報を見た楓は、装備に大盾を選んだ上に防御力に極振りという防御特化型でメイキングをしてしまう。
    本来であればまともに戦えないステ振りだが、普通の人はしないプレイをする楓はあれよあれよとレアスキルやレアアイテムを入手。鉄壁の防御と圧倒的火力による無双プレイヤーとして君臨してしまうことに。

  • 作品の特徴

  • ・主人公が鉄壁の防御と即死級攻撃スキルで無双する
    ・友人がプレイヤースキルで無双する
    ・ゲームの設定はかなり雑
    ・主人公がキ〇ガイ
    ・ストーリーとか目的は特に無しなほのぼの日常系


  • 一言

  • 防御に極振りしていますが、防御特化のお話ではありません。
    防御も攻撃も完璧な万能系無双主人公なので、そういうチート的な活躍が好きな人はどうぞ。

    逆に防御を活かして工夫して戦う的なものを期待している人はやめておきましょう。



    以下、それなりにネタバレがありますのでご注意ください。
    特に1巻についてはかなりネタバレされています。

    こんな作品

    あらすじ

    ゲームなどの知識に乏しく、ステータスポイントを全て防御力に振ってしまったメイプル。動きも遅く、魔法も使えず、挙句の果てには兎にすらどつき回される始末。あれ、でも全然痛くない…っていうか、ダメージゼロ?極振りの結果、手にしたスキルは“絶対防御”。さらには一撃必殺のカウンタースキルまで取得して―!?あらゆる攻撃を無効化し、致死毒スキルで蹂躙していく『移動要塞型』新人、自らの異常さに気づくことなく、出陣!


    この作品のタイトル見てどんな作品だと思いました?
    味方の盾となって活躍するとか、特殊な戦法で勝つとかそんなのを想像していませんでしたか?


    ぶっぶー! 正解は「敵の攻撃を無効化ながらも超強力な攻撃スキルで敵を倒す」でしたー!


    基本的に主人公のためだけに用意されたとしか思えないスキルやアイテムを次々と入手して、そんな主人公を他のプレイヤーがあたたかーく見守るお話が続いていきます。

    次々に現れるご都合展開を許容できるかが評価の分かれ目

    作者自らが公言していますが、この作品はご都合主義の塊です。
    どれくらいご都合主義かと言うと、


    ・冒頭で防御力2倍になるスキルを得る
    ・冒頭で強敵相手(実質全ての敵)にはステが2倍になるスキルを得る
    ・冒頭で状態異常耐性を得る
    ・主人公の攻撃はATK 0でも通る
    ・ATK0でも戦闘中のモンスターを食べて倒せる
    ・食べるとスキルを入手できる
    ・あらゆるものを吸収するスキルを得る(攻撃、モノ、キャラ含む)
    ・当たると即死する毒スキルを得る
    ・範囲内の敵を麻痺させるスキルを得る
    ・壊れる度に強化されて復活するユニーク装備を手に入れる
    ・AGI 0だけどスキルで高速移動できる
    ・お友達はステータス差をものともせずにあらゆる攻撃を絶対に回避するテク持ち


    ざっと思いつく限りでご都合展開を挙げてみましたが、これで1巻だけの内容です。
    これが2巻以降になると、


    ・始めたばかりなのにトップランカーを一方的にボコるお友達
    ・MP22しかないはずなのに無限に使い続けられる消費20のスキル
    ・更に防御力を1.5倍にするスキルを得る
    ・味方の防御力を自分と同じにするスキルを得る
    ・装備を犠牲に強力な攻撃を放てるスキルを得る
    ・ただし主人公の装備は壊れる度に強化されて復活する


    などなど本当にMMOか疑問に思うレベルの出来事がポンポン起こります。
    MMOでなくともちょっとでも自分でゲームをプレイしていれば「そんなスキル普通はねーよ」と突っ込まずにはいられないレベルのスキルが盛りだくさんです。


    主人公を活躍させるためとしか思えないスキルが用意されているし、主人公の突拍子もない行動に合わせてスキル取得条件が作られているため、「そんなゲーム作るやつおらんやろ」という事態が頻繁に訪れます。

    また、ステータスが設定されていますが基本的に意味をなさず、主人公が攻撃すれば相手は死ぬし、相手が攻撃しても主人公はダメージを受けない、AGIはプレイヤースキルで覆せるしMP設定はあるけどそれでスキルの使用に制限がかかることはありません。

    主人公たちが無双していればそれだけで面白いんだ!
    という人には向いているのでしょうが、僕は設定とか気にしちゃうタイプなのでここまでゲーム設定が雑だとちと厳しい。
    1~2個都合の良いスキルが出てくる分にはそれほど気にしませんが、始終この調子なのは…。

    主人公の行動についていけない

    先ほど述べたように本作はご都合主義の塊なので、作品を楽しめるかどうかはキャラ萌えできるかどうかにかかっていると思うのですが…。

    脈絡もなくいきなりモンスターを生きたまま食べたり、バトルロイヤル式の大会中に鼻歌混じりに地面にお絵描きし出したりする主人公や、ゲーム的にOKとは言えリアリティの高いVRゲームで嬉々としてPKを行う友人を「可愛い」と思えるなら本作を楽しめるのでしょう。


    逆にこれらの行動を見て「頭おかしいんじゃねーか?」と思う人にはどうやっても楽しめないと思います。
    残念ながら僕は後者でした。
    毒蛇見て「食べられそう」なんて言う女の子とかちょっと意味わからないですね。

    1巻にて役目を終える防御特化設定

    本書を気になった人の多くは「防御力に極振り」というところに注目しているのではないでしょうか。
    「鉄壁の防御力でどうやって活躍するんだろうか。味方が攻撃役になるとか何かシステムの裏を突くとかかな」なんて期待して読み進めるわけですが、1巻中盤に登場するボスを倒した時点で防御特化の要素は終了します。

    スキル『暴食』により魔法はおろか武器までも吸収して魔力に変えてしまい、スキル『毒竜』によってATKやINTを無視して致死性の毒をまき散らして敵を屠り、スキル『カバームーブ』によってAGIを無視して高速移動する。

    もう防御特化の話はなんだったの? ってくらいに万能化します。しかもありえないレベルで。
    物語が進んでいくと一部スキルは弱体化されたり貫通攻撃が追加されたりしますが、肝心の貫通攻撃は無振りのHPでも耐えられるくらいダメージ低いし、結局別のチートスキルを入手するだけなのでゲームバランスとか考えるだけ無駄になります。


    なぜかボスモンスターを相手にする時だけ苦戦しますが、基本的にスキル名連呼してるだけなのでなぜ苦戦しているのかも、逆になぜ勝てたのかもよくわからず、特に臨場感もありません。


    確かにステータスポイントは防御力に極振りしていくので、タイトルとしては間違っていません。作品的にはステータスが意味をなしていませんが。

    主人公が盾役として活躍する場面は滅多に無いので、そういうの期待している人は諦めましょう。

    ゲームとしての設定が適当なのはどうなのか

    この作品に対する僕の評価が低い理由の最大の理由は、舞台がゲーム世界なのにゲーム設定がおざなりなところです。


    ちょっとだけ話が脱線しますが、異世界ファンタジーとVRMMOの違いは何だと思いますか?
    web小説特有ではありますが最近はステータスだとかスキルだとかゲームっぽい要素が取り入れられることが多くなった異世界ファンタジー。
    一方でSAOのようにまるで本当にファンタジー世界に降り立ったかのようにリアルなVRMMO。

    アニメにすればパッと見では見分けられないこの両者ですが、その違いは誰が作って誰が管理しているかの違いだと僕は思っています。


    異世界ファンタジーは神様、あるいは超常の存在が生み出した場合があるため、どんなチートスキルが存在しようとどんな理不尽が待ち受けていようとそこで暮らす人々は文句を言うこともできず受け入れるしかありませんし、そんな存在の考えなんてわかりません。

    一方でVRMMOは所詮人の手によって作られたものです。
    クリエイターが用意したスキルしか存在せず、クリエイターが想定した動作しかしません(バグを除く)。

    ということを踏まえて本作を見てみると、スキルとかその取得条件とか「本当に人が作ったの?」と疑わずにはいられない設定が随所に見られますし、ステータスに依存しない動きをされちゃうと「計算式どうなってんの?」と思わずにはいられません。

    最近流行りの異世界転生もののネタをよく考えずにそのままVRMMOの舞台に持ってきちゃったって感じですね。
    『転生したらスライムだった件』のスキル『暴食』とか『盾の勇者の成り上がり』にあるスキル『ディフェンスリンク』とかまんまですもん。

    終わりに

    “オンライン対戦でチート使っているゲーム実況者を見て楽しむ”

    というのが本書の楽しみ方じゃないでしょうか。
    合わない人はとことん合わないタイプの小説だと思うので、購入前にweb版を読んだ方がいいでしょう。書籍版と内容変わらないので。