【感想】賭博師は祈らないは流行とは違った完成度の高い1巻
かんたん評価
オススメ度:★★★★☆
負けない、勝たない、祈らないの3つを信条としていた賭博師のラザルスは、ある日うっかり大勝ちしてしまう。賭博場からの逆恨みを恐れたラザルスは、仕方なくその賭博場で最も高額な商品である奴隷の少女リーラを購入する。
命令に従うよう調教されたリーラと、自分で買ったにも関わらず奴隷に無関心なラザルス。ぎこちなかった二人の関係は次第に変化していくが、そこに二人を引き裂く悲劇が訪れてしまう。
ラザルスは今一度自分の信条を見つめ直し、ギャンブルへと挑む。
・18世紀末のロンドンが舞台
・なんだかんだ人の良い無気力系主人公
・丁寧で読みやすい内容
・熱い賭博バトルは無い
・1巻でだいたい完結している
読んでいてワクワクするし内容もすんなり頭に入ってくるしで、新人賞とは思えない非常に完成度の高い作品です。
ただ、1巻でほぼほぼ完結している作品であり、2巻以降は蛇足かな…という印象。
以下、極力ネタバレを避けていますが、全くないわけではないのでご注意ください。
こんな作品
あらすじ
十八世紀末、ロンドン。賭場での失敗から、手に余る大金を得てしまった若き賭博師ラザルスが、仕方なく購入させられた商品。―それは、奴隷の少女だった。喉を焼かれ声を失い、感情を失い、どんな扱いを受けようが決して逆らうことなく、主人の性的な欲求を満たすためだけに調教された少女リーラ。そんなリーラを放り出すわけにもいかず、ラザルスは教育を施しながら彼女をメイドとして雇うことに。慣れない触れ合いに戸惑いながらも、二人は次第に想い通わせていくが…。やがて訪れるのは二人を引き裂く悲劇。そして男は奴隷の少女を護るため、一世一代のギャンブルに挑む。
ゴリゴリのギャンブルものを期待している人には残念かもしれませんが、この作品のメインは主人公と奴隷少女との関係がどう変化していくかというものになります。
作品内で何度も賭博をやっている描写はあるものの、どちらかというとこの時代にどのような賭博が行われていたか、ラザルスという人間がどのような生き方をしているかを表す目的がメインに思われます。
流行りの異世界転移/転生でもないし、ラブコメでもない。一般文芸でやっているような内容を読みやすくライトにした感じで、まさしく本来のライトノベルという感じではないでしょうか。
ここが面白い
賭博をどう活用するかがこの作品の魅力
例えばゲームでどう勝つのか、その戦略を楽しみたければノーゲーム・ノーライフを読んだほうがきっと楽しめます。
ですが、あれはゲームの勝利こそが重要な世界観だからこそ成せる面白さであって、権力だとか武力だとかが幅を利かせる現実世界では、ゲームに勝ってもどうにもならないことがままあります。
当たり前ですが組織相手に普通に賭博で大勝したって秘密裏に報復されるだけですよね。
だからこそラザルスの信条に“勝たない”があるわけですが。
本作の魅力はそんな現実世界で賭博というゲームを通じてどうやって目的を果たすかところにスポットが当てられています。
これがどういうことか説明したいところですが、大きなネタバレになってしまいますので詳細はぜひ本書を手に取ってご自身で確認してみてください。
本当に18世紀のロンドンにいるかのような雰囲気
本作は実際の18世紀のロンドンを舞台に物語が繰り広げられていきます。
何気なく書かれた街の描写。そして、リーラを連れて街中を辿るシーン。
自然と街の様子が頭に入ってきて、まるで自分のその地へ行っているかのような気分が味わえます。
僕は実際の18世紀ロンドンなんて知らないし、同じような舞台の作品をあまり知らないのでどこまで正しく描写されているかまではわかりません。
しかし、頭の中には間違いなく『賭博師は祈らない』の世界が浮かんできます。
ちなみにあとがきでも本作の舞台については触れられており、概ね史実を元に描写されているようです。カツラなど一部時代が前後しているものもあるようですが。
人によってはこうしたウンチクを押しつけがましく感じるかもしれませんが、個人的には知識が増えるので結構好きなポイントです。
1巻の中でひとまず物語が完結している
ラノベというのは数巻続くことを前提としているせいか、最近は1巻ではキリ悪いというか、何にも解決していないし何もわからないままという作品が多いように思えます。
そんな中、本作は1巻にして非常にキリの良いところまで書ききっています。
それも、駆け足で書かれているとか内容が薄いとかではなく、起承転結がしっかりしており、しかも話の盛り上がりとしても非常に満足のいくレベルで。
ここで作品が終わってもおかしくないし、このまま続巻が出てもそれはそれでおかしくないという絶妙な内容なのは素直に凄いと思いました。
読者側としてはちゃんと1冊で楽しめるものにしてほしいですよね。
ここがちょっと気になる
2巻以降が蛇足
1巻の完成度は非常に高くぜひ読んでみてくれとオススメしたい作品なのですが、2巻以降が蛇足な感じが否めません。
というのも、2巻以降は舞台がロンドンから離れて別の村や街へと出向くのですが、当然ながらそこでも揉め事に巻き込まれます。
ただ、この揉め事がラザルスとリーラにはそこまで重要ではないというか…。なぜラザルスはこんなことに手を貸しているんだ? とか、わざわざ信条を破ってまで賭博を行うことなのか? とか、なんだかもやもやしてしまう内容だったりします。
また、2巻以降は女性キャラ率が増えたりその新規女性キャラに婚約を迫られたりと急にハーレムが形成されるので、良くも悪くもラノベっぽい作品になってしまいます。
最終巻の5巻ではラザルスとリーラの今後についてどうなるかをほのめかすような内容があるため、その後が気になる人は読んでみてもいいかもしれません。
しかし、正直2巻以降は特別つまらないという程ではないけれど凡作の域を出ていないという印象で、全巻を含めると評価はちょっと下がってしまいます。
ちなみに5巻のあとがきを読むと作者本人も1巻で終わる予定だった旨の記述が…。
やっぱり無理に引き延ばしても良いことないですよ、うん。
終わりに
こういう流行とは違うちょっと硬派で変わった題材の物語を出せる。
最近の電撃文庫は正直言って微妙な作品が多い印象でしたが、これは久々に当たりだと思った作品です。
1巻だけで楽しめるのでハードルが低いのもオススメポイント!