【感想】由比ガ浜機械修理相談所はやがて来る未来について考えさせられる

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かんたん評価

オススメ度:★★★★☆

  • こんな作品

  • 人と区別がつかないほど精巧な女性型ヒューマノイド「TOWA」
    その製造会社ブラックアイリスは、とある事件をきっかけに倒産してしまい、TOWAの生産は終了してしまう。
    ブラックアイリスの技術者だった青年・氷雨は、事件による傷心により再就職もままならず、さりとて何もせずに実家にいるのはいたたまれず、逃げるように鎌倉に「由比ガ浜機械修理相談所」を開いた。
    客足の少ない相談所にある日、戸川という男がやってきたことで転機が訪れる。彼の依頼は、TOWAの新しいオーナー探しだった。


  • この作品の特徴

  • ・近未来の日本が舞台
    ・人とヒューマノイドの純愛物語
    ・内容はシリアス寄り
    ・1巻完結


  • 一言

  • ちょぴり悲しくて、そして感動する物語です。
    めちゃくちゃ面白いというよりは、読んでよかったなと思った作品。

    以下、極力ネタバレを避けていますが、全くないわけではないのでご注意ください。

    こんな作品

    あらすじ

    2023年の夏。僕は世間から逃げるように、鎌倉に「由比ガ浜機械修理相談所」を開いた。ほとんど客の来ない相談所。そこへある日、奇妙な男・戸川が訪れる。
     彼とともに現れた女性、それは人に近づきすぎた機械「TOWA」だった。戸川に手放され、居場所を失った彼女・結のため、僕は新たなオーナーを探し始める。
     突然はじまった共同生活。二人の時間を過ごすなかで、僕たちはお互いを大切に想うようになっていくが――。

    親の期待を裏切りベンチャーのロボット会社に就職した氷雨。
    しかし、とある事件をきっかけに倒産してしまい実家に帰る羽目になってしまう。
    再就職もせず、いよいよ実家の居心地が悪くなっていた時、叔母の所有する空き家の管理をする話が出てくる。
    これ幸いにと実家を飛び出した氷雨は、ご近所さんの何気ない頼みをきっかけに空きスペースを利用して由比ガ浜機械修理相談所を開業する。
    ところが期待とは裏腹に一向に客が来ない。そんな相談所にある日訪れた、戸川という男。彼が連れてきたのは、かつて氷雨が務めていた会社が作成した女性型ヒューマノイド「TOWA」だった。
    なぜかこんな出来立てで知名度のない相談所にTOWAの売買を依頼してくる戸川。
    一方で「人」を売買することに嫌悪を抱く氷雨。

    果たしてなぜ戸川はこんなところにTOWAの売買を依頼に来たのか
    氷雨の身にかつて起きた事件とは
    そして氷雨とTOWAの運命は!?

    ここが面白い

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    ヒューマノイドの命の価値とは

    人身売買というと大抵の人は忌避感があると思いますが、ヒューマノイドの売買となるとどうでしょうか。
    まるで人間のような見た目で、人間と同じような感情を持つ、そんなヒューマノイドがいたら。

    この作品において、TOWAには一億四千万円という販売価格が付いています。
    価値があるからこそ研究をすることができ、研究を重ねた結果TOWAは人に限りなく近い存在として生まれてくることができました。

    氷雨の努力によって生まれることができたTOWAがいて、氷雨によって地獄に落とされたTOWAがいて、そして氷雨によって幸せを感じているTOWAがいる。


    果たして彼の行ってきたことの何が正しくて何が間違いだったのか。


    10年先か100年先か、現実でもいずれ自我を持ったヒューマノイドというのは実現されるでしょう。
    その時、そこにどのような価値を付け、どのように扱うのか、考えなければいけないということを思い知らせてくれます。

    後半からの怒涛の展開に圧倒される

    この作品、正直序盤はちょっと退屈なんですが、中盤の氷雨の過去話からだんだんと面白さが増していきます。

    氷雨はどんな理想を抱いてブラックアイリスに入社したのか
    なぜ氷雨はこんなにも自然にTOWAに恋をしてしまっているのか
    氷雨はいったいどんな罪を犯してしまったのか

    といった氷雨の秘密についてどんどんわかっていきます。
    隠されていた情報がわかってくると今までモヤがかかっていたところがはっきりしてきます。


    そして後半になると物語は一気に加速していきます!

    かつて氷雨が担当していたTOWA達は何を思っていたか
    結が抱えている秘密とは
    戸川はなぜ結を手放すのか

    そして氷雨と結の恋の行方は!?


    終盤の展開が激しすぎて止め時を見失います。
    もうね、感情揺さぶられまくりですよ!

    ここがちょっと気になる

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    一般人からのTOWAの扱いが不自然

    TOWAが初登場したのが2020年。そして物語の舞台は2023年。
    登場してわずか3年で製造台数はたったの91台。

    そんなTOWAが世間的に広く認知されており、一部とは言え恋愛対象として受け入れられているというのには違和感があります。

    まぁ、人とロボットとの報われない恋なんてさんざんやり尽くされているため、今さらそこをテーマにしてほしいとは思わないのですが、だからといってあまりに自然に受け入れられているのも何か違うかな。

    また、とあるシーンで不良に絡まれた際に「ロボットだから壊してもいい」みたいな発言が出てくるのですが、普通に考えて壊して良いわけないですよね。
    仮にTOWAが感情の無いただの機械だとしても、人のもの壊したら弁償しなきゃいけないですし、ましてやTOWAは定価一億四千万円の超高級品です。壊したら人生終わりますよ…。

    本筋には深く影響しないけれど、なんか変だなーというところがこれ以外にもちょこちょこあるのだけが気がかりでした。

    終わりに

    全てが完璧な作品ではありません。
    もうちょっとこうだったらなーみたいなところは数多くあります。

    それでも、僕はこの作品を読んで心から感動したし、多くの人に読んでもらいたいなと思います。