【感想】吸血鬼に天国はないはめくるめく展開の物語
かんたん評価
オススメ度:★★★☆☆
法律が意味をなさず、いくつものマフィアが縄張り争いを行っている。そんな街でシーモアは金さえ貰えれば煙草だろうと死体だろうと何でも運ぶ運び屋をやっていた。
ある日受けた仕事は、どこか浮世離れした少女ルーミーをとある家に送り届けることだった。人を運ぶだけの安全な仕事かと思いきや、追跡してくるいくつもの車。
マフィアに命を狙われていたルーミーは銃弾で頭を撃ち抜かれるが、まるで逆再生をするかのよう肉体へと戻る血肉。彼女は空想上の存在、吸血鬼だった。
彼女を安全な場所へと約束してしまったシーモア。
かくして運び屋と吸血鬼の奇妙な共同生活が始まる。
・第一次世界大戦直後が舞台
・ファンタジーじゃない世界でのヒロイン吸血鬼
・車愛強め
大戦後という世界観の雰囲気描写は抜群。
どちらかというとお互い気遣いまくった恋愛なので甘さが欲しい人には物足りないかも。
以下、極力ネタバレを避けていますが、全くないわけではないのでご注意ください。
こんな作品
あらすじ
大戦と禁酒法によって旧来の道徳が崩れ去ったその時代。非合法の運び屋シーモア・ロードのもとにある日持ち込まれた荷物は、人の血を吸って生きる正真正銘の怪物―吸血鬼の少女であった。仕事上のトラブルから始まった吸血鬼ルーミー・スパイクとの慣れない同居生活。荒んだ街での問題だらけの運び屋業。そして、彼女を付け狙うマフィアの影。彼女の生きていける安全な場所を求めてあがく中で、居場所のないシーモアとルーミーはゆっくりと惹かれ合っていく。嘘と秘密を孕んだ空っぽの恋。けれど彼らには、そんなちっぽけな幸福で十分だった。人と人ならざる者との恋の果てに、血に汚れた選択が待ち受けているとしても。
「ある日保護した少女がまさかの吸血鬼でした」というところから始まる物語。
時にカーチェイスが行われ、時に銃弾飛び交う戦い。
ファンタジーっぽい要素は吸血鬼の彼女くらいで、他のキャラクターが不思議な術を使うなんてことはなくかなりリアル寄りなお話です。
二転三転する敵味方の状況と立場。
ルーシーとの出会いを仕組んだのは誰か。そして彼女の抱えている本当の秘密とは?
ここが面白い
舞台描写が素晴らしい
大戦後の世界。禁酒法が発令され、エセックスという車が登場する。
作中の描写から考えるに、本作の舞台は1920年辺りのアメリカでしょう。
ライトノベルとしてはかなり珍しいですね。
街を支配するマフィア
禁止されながらも吸われるタバコ
一部の家、または店にしか置いていない電話
前作『賭博師は祈らない』でも感じましたが、この本の著者・周藤 蓮さんは時代ものの舞台描写に関しては抜きんでています。
少なくともライトノベルではなかなかお目にかかれません。
ここがちょっと気になる
物語の起伏に乏しい
別に面白くない…というわけではないのですが、物語の起伏が乏しいのが残念です。
ところどころにカーチェイスが混じったりカーチェイスが混じったり(カーチェイス多め)するので、起伏が全くないというわけでもありません。
ただ、1冊として見ると小さい山と谷が何度か繰り返された末になんだかんだと一段落着いて話が終わってしまうため、物足りない気持ちになってしまいます。
特に電子書籍で読んでいると、いまいち終わりが見えないためモヤモヤが。
ルーシーの心の変化がわからない
作中でただ一人、吸血鬼という人外の存在であるルーシー。
彼女は人を人とは思わず、言葉が通じる動物と接しているようなものという描写があります。
まぁ人間の力では簡単には彼女を害することはできず、一方で彼女の手にかかれば簡単に命を奪える、そんな関係。
それにも関わらずシーモアとルーシーは互いに恋をするようになるんですが、シーモアはともかくとしてルーシーがなぜ人間であるシーモアに想いを寄せるようになったのか、そこがいまいちわかりません。
彼女が普通の女の子であれば大した理由などなくても惚れた腫れたが起きても不思議ではないのですが、自分と人は違うモノと認識している彼女が恋をするには色々とイベントが足りていないんじゃないかなと思ってしまいます。
終わりに
うーん、前作『賭博師は祈らない』を読んだ後だと正直期待外れという感じが強いです。
別に面白くないというほどではありません。ただ、なんだか物足りないなとは思います。
まぁ、個人的に車にそんな興味ないため、カーチェイスとかやられても特に興奮しない点も大きいかもしれません。
前作を知らずに読んでいれば楽しめたのでしょうか。
ちなみにラノベ史上、最もセッ〇スという文字が書かれていたのではないでしょうか。
実際には車の名称「エセックス」なんですが。