【感想】『常敗将軍、また敗れる』はオリジナリティあふれる戦記モノ

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かんたん評価

オススメ度:★★★★★

  • こんな作品

  • 数々の戦争に参加し、そしてその全てで敗北しているという歴戦の傭兵ドゥ・ダーカス。
    その戦歴から彼は“常敗将軍”の二つ名で知られ、その不吉さから味方からすらも恐れられる。
    しかし、ヴァサームントの当主をはじめ、世の強者の一部は彼を高く評価する。
    世界最強の傭兵と名高い「ヴァサームントの騎士団」当主の娘ティナは父や兄が評価するダーカスの秘密を探るべく、彼の弟子となって戦争に参加する。


  • 作品の特徴

  • ・戦略と戦術両方楽しめる戦記モノ
    ・なぜ敗北する傭兵に需要があるのか考えるのが面白い
    ・主人公がめちゃくちゃカッコいい
    ・恋愛要素ほぼ無し


  • 一言

  • 敗れるとわかっているのに先の展開が気になって仕方がない、そんな作品です。読めば読むほどダーカスの魅力に引き込まれてしまいます。

    以下、極力ネタバレを避けていますが、全くないわけではないのでご注意ください。

    こんな作品

    あらすじ

    「貴様はこれまで父ローディアスと二度、長兄シャルクとは一度戦っているはず。そして、どの戦にも負けた」「しかし、まだ生きている」ティナの声が少し弾んだ。
     世界最強の「ヴァサームントの騎士団」当主の娘、ティナは初陣にて『常敗将軍』と渾名される異端の英雄、ドゥ・ダーカスと出会った。
    陰謀に満ちた戦乱の世界で破格の生き様を見せる英雄ダーカスと、その姿を追いかけるティナや姫将軍・シャルナら魅力的なキャラクター達が織り成す一大ファンタジー戦記!

    剣はあるけど魔法はない、本当に一騎当千できるほど極端な猛者もいないというあまりファンタジーっぽくない戦記モノです。
    一発逆転の大技などの派手さはありませんが、代わりに戦略がものを言うため「これぞ戦記」という魅力が詰まっています!

    ここが面白い

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    先の読めない物語に引き込まれる

    この作品の何が魅力かと言えば一番はストーリーの面白さでしょう。
    今まで一度も勝利したことが無いという常敗将軍ドゥ・ダーカス。けれども彼を雇った宰相は間違いなく彼に期待しており、ダーカスも圧倒的自信を見せつけます。
    読んでいる側としては「彼は実は敵国の間者なのでは?」とか、「いやしかし戦には本気で挑んでいるように見えるぞ!」とか色々考えてしまい中々先が読めません。それでも所々にダーカスの真意をほのめかせてくるものだから、もっともっとと作品に引き込まれてしまいます。
    最終的にダーカスの真の目的とどこまでがダーカスの思惑通りだったかが判明して非常にスッキリとした読了感が得られます。

    1巻がかなり大がかりな仕掛けで完成度も高いため2巻以降が心配になる人もいるかもれませんが、2巻では小規模な戦、3巻では政争と違った面白さを提供し続けてくれます。

    主人公が魅力的

    端的に言えば頼りがいのある大人です。
    最初は飄々とした態度に頼りがいなど感じさせないダーカスですが、礼儀が大事な場面では礼を尽くすし、必要のないならばどれだけ挑発されようと避けて、それでもいざという時は先頭に立って剣を振るう。
    これがカッコよくなければなんなんだという感じです。

    時には上官に媚びを売り、時にはメイドたちとお茶を楽しみ、端から見ればろくでもないやつだと思われる行動を平気でするわけですが、それが作戦に必要であれば難なくできてしまう。正義感あふれる若者たちからはふざけているように見えることもありますが、その実彼が一番皆のことを考えているんですよね。
    様々な方面から情報を集め、偉い人からの信頼を得て、最適な作戦を実行していく。
    熱意による勢いやあくどいキャラによる心無い作戦とも違う、ダーカスという大人なキャラだからこその戦術が見られ、だからこそこの作品他とは一線を画す戦記モノになっています。


    ラノベの主人公は少年・青年がメインで大人な主人公というのがそもそも珍しいのですが、ダーカスのカッコよさはここ最近読んだ作品の中でもトップレベルでした。

    巻を重ねるごとに成長していく弟子たち

    この作品の主人公ダーカスは2巻3巻でもその積み重ねた知恵と話術で新たな“凄み”を見せてはくれますが、残念ながら既に完成された大人であるために“成長”を見ることはできません。
    代わりにその役割を担ってくれるのがティナやアイザッシュといった彼の弟子たちです。
    1巻、2巻では己の未熟さ故にダーカスに尻ぬぐいをさせてしまっていた彼らですが、ダーカスの指導の下で何が足りないか学び、次第にダーカスの作戦を助けることも…!

    ここがちょっと気になる

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    恋愛要素は期待してはいけない

    ラノベと言えば大なり小なり恋愛要素が絡んでくるものですが、この作品ではそれを期待してはいけません。
    一応ティナがダーカスのことをちょっと気にしているような描写はあるものの、そもそもダーカスが大人過ぎて全く相手にされていないので進展することは無いでしょう。むしろ進展したらがっかりまである。

    終わりに

    久々に面白い作品を読んだという感じです。
    最近は1巻だけ面白くても2巻以降は微妙というものも多いですが、2巻、3巻と違った面白さがあるのは良かったです。
    戦記モノということ、恋愛要素が無いというところはちょっと人を選んでしまうかもしれませんが、大人な主人公が好きな人はぜひ!