【感想】『ライアー・ライアー』は設定は面白いが展開に粗が多すぎる

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かんたん評価

オススメ度:★★☆☆☆

ゲームを用いた生徒同士の対戦“決闘”の成績が生徒の人生を左右する特殊な学校で、実力は底辺にも関わらず偽りの頂点として君臨しなければならなくなった主人公の物語。
賭ケグルイとバカテスを混ぜたような内容でMF文庫的にはノゲノラの後釜を期待したのであろうが、肝心の決闘の展開や星システムの完成度が低すぎて残念。

こんな作品

あらすじ

学生同士による決闘(ゲーム)というシステムを試験的に導入している特殊な離島”学園島”<アカデミー>。
格上の者に勝利する度に星を獲得でき、その星の数が多いほど優遇される上に卒業後の未来にまで影響を及ぼすというテストの結果以上に重要な要素であった。

幼馴染の少女のことが忘れられなかった篠原緋呂斗は、思い出の少女に会うべく学園島の一つ“私立英明学園”に転校してきた。
ところが、転校初日に学園島でも頂点の7ツ星にして学園創始者の孫娘“彩園寺更紗”を決闘で負かして星を奪ってしまったことで今後の学園生活を揺るがす事態に。
彩園寺家のメンツを保つために偽りの7ツ星を演じなければならなくなった緋呂斗。
学園長の協力もイカサマも何でも使い、彼は嘘を貫き通すことができるか!?

登場人物

篠原緋呂斗

学園島に編入してきた転校生。
本来なら編入に必要な成績に満たない程度の学力しかないのだが、学園長曰く彼にはまだ見せていない力があるよう…?
ポーカーフェイスが得意。

彩園寺更紗

学園島の創始者の家系で学園島最強だった元・7ツ星。
ところが実際は色付き星の“赤”の効果で偽りの更紗を演じていた影武者だった。

姫路白雪

緋呂斗の補佐をするよう学園長から言い渡された生徒兼メイド。
≪カンパニー≫の長で、星取りゲームのシステムに介入してイカサマを行う。

ここが魅力

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テーマはワクワクする

“本当は実力が無いにも関わらず、最強を演じ続けなければならない”
強者の余裕を見せつけながら、実際には絶対的不利な状況で戦わなければならないという状況は、どんな方法で解決するか非常に楽しみになるもので個人的には大好物なテーマです。『ノーゲーム・ノーライフ』なんかが正にそれでしたね。
一方で勝利する方法に驚きや納得感が無いと全く面白くないわけですが…。

ここがちょっと気になる

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星取りゲームシステムがご都合過ぎる

本作品の肝となる要素“星取りゲーム”ですが、そのシステムがあまりにも作者の都合在りきで読んでいて萎えます。

例えば主人公の持つ星の数
入学時に星を一つ学校側から配られるという設定があるはずなのですが、主人公には“色付き星”のみを集めさせたいという作者の都合で主人公は星を貰うことがなく、彩園寺更紗から奪い取った色付き星“赤”のみで学園生活が始まります。

例えば7ツ星の偽装について
色付き星“赤”の効果で主人公はデータ上7ツ星という偽装を行うわけですが、どういうわけか7ツ星というランクの恩恵を受けることができません。
格下のプレイヤー情報を閲覧できるという設定やプレイヤーを有利にするための“アビリティ”の装備等、有利に働くものはなぜか1ツ星相応の権限しか与えられていません。
これだけなら見かけ上だけ7ツ星になっているということでシステム的には星1つですよと納得できるのですが、「決闘は上のランクの低い者からしか申請できない」という設定があるにも関わらず、星3や星4のプレイヤーから主人公に決闘を申し込むことができてしまいます。
このことからシステム的にも主人公のランクは星7と認識されているわけで…。


こんな感じで全体的に作者の都合在りきで組み立てられているせいで設定が穴だらけとなってしまっています。
あまりにも多い矛盾点に、作者はもちろん、編集は気付かなかったのだろうか。
1巻にしてルールが崩壊してしまっているため、もう修正のしようが無いけれど。

ゲームの展開がお粗末

本作品の目玉とも言える決闘≪ゲーム≫ですが、目玉であるはずなのにその展開があまりにもお粗末でガッカリします。

まず冒頭の彩園寺更紗とのゲーム内容が『睨めっこ』なわけですが、その決着が「事前に水に濡れて服が透けてしまっているのをゲーム開始後に気付いて恥ずかしくなったから」という、とても頂点だったプレイヤーとは思えない負け方をします。

その他のゲームにしても、天才ハッカーによるゲームシステムを直接いじるようなイカサマや、数値を10倍にしたり自分だけ2回行動できるアビリティが突如登場したりと、ゲームルールが意味をなさなくなるような要素がポンポン出てきます。


『賭ケグルイ』では相手がどんなイカサマをしているか暴く様が面白く、『ノーゲーム・ノーライフ』ではルールの裏をかいたり白の計算力で突破したりと、強引ながらもキャラの特性に沿った方法で勝利をしていて楽しめました。
ところがこの作品では主人公がイカサマをする側な上に、そのイカサマがただただ優秀なプログラマーがシステムハックを行うだけという非常に味気ないものになっています。


というかそもそもゲームの選択から戦法に至るまで全体的に対戦相手から頭の良さを感じられません。
「不公平なゲームはシステムで弾かれる」という設定があるにしても、セオリーを知らないと勝てないドマイナーなゲームなんていくらでもあるだろうし、公平であればオリジナルがOKなのだから自分しか知らないセオリーがあるゲームも作れるだろうに…。


“作者の頭を越える天才は書けない”とはよく言われます、まさにそれでした。

主人公の目的に共感できない

主人公が2年生にして学園島の学校に編入してきたのにはある目的があるからなのですが、その目的というのが「幼馴染の少女と再会するため」というもの。
これが特別な相手だったり何かしらのイベントがあったりするのなら納得がいくのですが、まさかの“名前も容姿もほとんど覚えていない”というのだからわけがわからない。

なんで名前も容姿も覚えていないような相手に会いたいのか?
名前も容姿もわからないのになぜ学園島にいるのがわかるのか?

百歩譲って情報を小出しにしているのならまだしも、2巻まで読んでも全然情報が増えないという。
これではただ頭のおかしいやつとしか思えず、全く共感できない。

終わりに

1巻を読んでいた時は粗がありながらも楽しめるかなと期待していたが、2巻になると更に粗が大きくなっていくのにはがっかりでした。
ゲーム部分だけでも制作協力者を呼ばない限りこの作品が面白くなることはなさそう。