【感想】86-エイティシックス- は1巻が至高にして作品のピーク

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かんたん評価

オススメ度:★★★☆☆
帝国が開発した“レギオン”と呼ばれる無人兵器が侵略してくる世界で、人権の無い“第86区”の少年少女たちが“ジャガーノート”と呼ばれる表向き無人兵器という設定の“有人兵器”に乗って戦う物語。

戦争がテーマの作品であり、味方がバンバン亡くなっていくのもあって非常に重い話ではありますが、だからこそ濃密で心揺さぶる展開が楽しめる作品となっています。
…1巻だけは。話としてのピークは1巻で迎えてしまっており、2巻以降は蛇足感が半端ないので注意が必要です。

以下、極力ネタバレを避けていますが、全くないわけではないのでご注意ください。

こんな作品

あらすじ

大国ギアーデ帝国が作り上げた完全自立無人戦闘機械“レギオン”によって瞬く間に大陸全土を戦地とした大戦争が勃発する。
そんな中、レギオンに対抗できる同型兵器を開発したというサンマグノリア共和国は、かろうじて帝国からの侵略を退けていた。しかし、実はその兵器の中には存在を抹消された“第86区”の少年少女たちが乗り込んで戦う有人兵器であった…。


「戸籍上存在しない人が乗ってる兵器だから実質無人兵器だよね」という北〇鮮もビックリな人権意識から成るブラックなストーリーです。
有人式な上に兵器の質も敵方より低い、そんな明らかに不利な状況で86区の少年少女たちはどのような運命を辿るのか。そして、そんな彼らの監督を任されたヒロイン・レーナはこんな残酷な状況でどのような決断を下すのか。
そんなところを楽しむ作品です。

ここが魅力

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ハラハラドキオキする展開

主人公サイドが操る兵器は帝国の操るレギオンに比べて一回りも二回りも弱い機体。
そのうえ敵方は無人兵器なので損壊に対する恐怖もなく襲ってくるが、こちらは数少ない人員を更に削られながら対抗していく。
そんな圧倒的不利な状況での戦いになるので、この先の戦闘はどうなるのか? 果たして最終的に彼らは勝てるのか? といった気持ちが最後まで離れません。
しかも、さっきまで仲良く話していた固有名詞付きの仲間が割とバンバン戦死していくため、最終的に誰が生き残るのか、いや、全滅すらあり得るのではないかと最後まで緊張感をもって楽しむことができます。

ここがちょっと気になる

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2巻以降の蛇足感が半端ない

1巻を読み終えると「ははーん、こういう結末になるのね」となかなかに納得感のある結末を迎えることになるのですが、実は1巻のラストは物語の構成上、読者(及びヒロイン)には知ることのできない空白の期間があります。
2巻及び3巻はその空白の期間を書いた作品になるわけですが、ぶっちゃけ1巻読んでたら結末がわかってるわけですよ。
こういう緊張感の盛り上げが作品の大きな魅力になっている作品で結末がわかっていると、「なんかピンチになってるけど、どうせこいつ生きてるんだよなぁ」とか、逆に「こいつ死んじゃうんだよなぁ」みたいな気持ちになっちゃうわけです。

まぁ電撃小説大賞への投稿作品なため、1巻でキリの良い終わりにしなければならないという制約があるため仕方ないところではありますが、明らかに構成をミスってしまった感があります。
しかも、それが2巻も続くわけで、1巻の続きを読めるのは4巻まで待たなければいけないという。
そしてここまで読むと気づいてしまうことがあるのですが、絶望感を出し過ぎてしまったがために「あ、これ人類が勝つの無理じゃん」っていう程に敵方を強くし過ぎてしまいました。
ぶっちゃけこの状況から最終的に主人公サイドが勝つにはとんでもご都合展開が訪れるしか無いわけで、かといってバッドエンドなんてものはいくらなんでも悲しすぎるわけで、どっちに転んでもなんだかなぁな気持ちになること間違いなし。
そのため、この作品は1巻で止めておくのが無難と言わざるを得ません。

戦争シーンのイラストが一切ない

本作を担当しているイラストレーターは『りゅうおうのおしごと』で有名なしらびさん。
彼が描くキャラクターは大変魅力的なのですが、残念ながらこの手の戦争モノのラノベのイラストとなるとガッカリと言わざるを得ません。
というのも、本作は戦争モノにも関わらず戦争シーンの挿絵が一切無いのです!
多くのラノベでは盛り上がるシーンにこそ挿絵を入れてくれるものですが、この作品では割とよくわからないシーンに挿絵が入ることになります。(いや、そもそも挿絵が少なかったような)
メカデザインはⅠ-Ⅳさんという別の方が担当されており、設定資料集のような説明絵が入っているだけになります。
実際に読んでみるとわかってくれる人もいるかと思いますが、「そういうんじゃないんだよ」という気持ちになります。
兵器を描くのは美少女とは全く別の技術が必要なのでしょう。であれば、美少女も兵器も描けるイラストレーターにお願いすればよかったわけで、流石に戦争シーンが1枚も無いのは残念です。

終わりに

デビュー作ということでお世辞にも読みやすい文章とは言い難く、おまけに戦争モノと内容も非常に重いものとなっているため非常に人を選ぶ作品だと思います。
とは言え1巻の完成度としてはとてもよくできているので、1巻に関してはオススメできます。