【感想】処刑少女の生きる道は非常に丁寧に作られた小説

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<2019/9/23> 2巻について追記

かんたん評価

オススメ度:★★★★☆

  • こんな作品

  • かつて世界に高度な文明をもたらし、そして世界を破滅へと追いやるほどの力を持った異世界からの来訪者『迷い人』
    同じ過ちを繰り返さぬよう、教会は危険な力の持ち主である迷い人を処理する組織『処刑人』を作り出した。メノウはそんな処刑人の一人である。
    いつものごとく迷い人を処理していくメノウであったが、その日出会ったアカリという少女だけは何度殺しても復活してしまう特異な能力の持ち主だった。
    アカリを殺す手段を探すべく彼女を騙して旅に出るメノウ。その先にメノウが生きる道はあるのか。


  • 作品の特徴

  • ・異世界人がやってくる側の視点の物語
    ・独自性がありながらわかりやすい世界観
    ・登場人物だいたい女性キャラ
    ・百合要素がちょっとしつこい


  • 一言

  • シリアス寄りの王道ファンタジー。
    読み進めるほどに少しずつ世界の秘密が暴かれていくため、ファンタジー好きにはたまらない作品です。



    以下、極力ネタバレは避けていますが、全くないわけではないのでご注意ください。

    こんな作品

    あらすじ

    この世界には、異世界の日本から『迷い人』がやってくる。
    だが、過去に迷い人の暴走が原因で世界的な大災害が起きたため、彼らは見つけ次第『処刑人』が殺す必要があった。
    そんななか、処刑人のメノウは、迷い人の少女アカリと出会う。
    躊躇なく冷徹に任務を遂行するメノウ。
    しかし、確実に殺したはずのアカリは、なぜか平然と復活してしまう。
    途方にくれたメノウは、不死身のアカリを殺しきる方法を探すため、彼女を騙してともに旅立つのだが……
    「メノウちゃーん。行こ!」
    「……はいはい。わかったわよ」
    妙に懐いてくるアカリを前に、メノウの心は少しずつ揺らぎはじめる。


    異世界転移/転生してきた人間には何らかの特殊能力が備わっていて、彼らが世界に大きな影響を及ぼすのは最早説明が不要なくらい定番となっています。

    ところが彼らが及ぼす影響が必ずしも良いこととは限らないのでは…?
    という視点から、異世界側の住人を主人公にしたのが本作となっています。


    街一つを消し去ってしまうなんてものは可愛いほうで、大陸を生物の住めない塩の大地に変えたり、大地をくり抜いて浮かべてしまったり…。
    異世界人の暴走が残した爪痕はとても大きく、それ故この世界では異世界人は漏れなく処刑することとなっています。
    こうした異世界人を処刑するのが教会の暗部である『処刑人』の仕事であり、その一人が主人公・メノウです。

    1巻ではこの世界の一般知識と、メノウとアカリ/モモの関係について。
    2巻からはこの世界や教会の隠された事実について少しずつ明かされていきます。


    ところでタイトル見て「表紙の子が処刑されちゃうけどなんとか生き延びる話なのかな?」とか思っちゃったのはきっと僕だけではないはず。
    まさか処刑“される”少女じゃなくて処刑“する”少女だったとは…。

    ここが面白い

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    丁寧に練られた物語

    随所に散りばめられた伏線、そしてそれを見事に回収していく物語。
    この作品を読み終わった時、「あぁ、なるほどね」と必ず思うでしょう。

    本作における伏線は基本的に読者にそれと気づけるように張られているため、「だからあの話があったのね」とわかるようになっています。
    また、その回収も無理矢理感がないため、非常に納得のいくものとなっています。
    ちゃんとプロット作ってんの? と言いたくなるくらい突拍子もない展開を持ってくる作品も少なくないですからね…。

    盛大なネタバレになってしまうのでここで伏線について触れられないのが残念ですが…。

    これほど“丁寧に練られた物語”という言葉が似合う作品はそうそうないと思います。
    最初は誇大広告かと思っていましたが、七年ぶりにGA文庫大賞を受賞したというのは伊達じゃないです。

    独自性がありながらわかりやすい世界観

    本作はいわゆる中世ヨーロッパっぽいファンタジー世界が舞台なのですが、そこにはしっかりとオリジナリティがあります。

    魂に満ちる【力】を引き出し使う『導力』
    異世界人が使う強大な力『純粋概念』
    そんな異世界人を殺すための『処刑人』

    また、2巻から本格的に物語に加わってくる四大人災
    北大陸中央部をくり抜いて浮かべる『星骸』
    東部未開拓領域を支配する『絡繰り世』
    西方大陸を海に溶かした『塩の剣』
    南端諸島を食い尽くした『霧魔殿』

    こういう設定見るとワクワクしてきませんか?
    これ以外にも様々なオリジナル要素がありますが、この作品の何が素晴らしいって、こうした専門用語の説明を話の中にサラリと入れてくるところです。
    決して少なくないオリジナル要素を説明臭くせず読者に説明するって結構難しいんですよね。

    しかも、こうした要素それぞれにしっかりと背景があり、その背景があるからこそ「この物語になるのね」と納得できるものになっています。
    作者が「ただ書きたくて書いたけどストーリーには関係ないですよ」的なオリジナル要素ではなく、しっかりと物語に組み込まれたものとなっています。

    導力だけはちょっと説明がややこしいのが残念ですが。
    たぶんこれはアニメ化で映えるやつ。

    ここがちょっと気になる

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    処刑人補佐のモモに難がある

    非常に満足度の高い本作ですが、個人的に一点だけ好ましくないところがあります。


    ラノベにしては珍しく主人公が女の子、登場人物もみんな女の子ということで、百合界隈では非常に人気があるらしい本作。

    そんな本作の登場キャラの一人に、処刑人補佐のモモというキャラがいるのですが、これがまぁウザい。
    “主人公が人を殺した”という割とシリアスなシーンに唐突に現れたと思ったら、やたらと甘えたしゃべり方をするわ上官である主人公の言うことを聞かないわ…。

    こういう振り回してくる系のキャラがあまり好きではないという個人的事情もあるのですが、それを抜きにしても物語の流れをややぶち壊している感じが否めません。

    実はメインヒロインのアカリも我が強い振り回す系ヒロインなのですが、こちらはまぁ日本の女子高生って考えたらこういう人もいるかもねと済ませられます。(それでもちょっとウザいけど)
    しかし、モモは処刑人補佐という役割を担っています。


    この作品において処刑人というのは教会の暗部的立ち位置。その存在を知られること無く忠実に仕事をこなすことが求められていると僕は解釈しているのですが、そこにモモがいるのは違和感しかありません。

    主人公と一緒に居たいからと本来の仕事を放棄して旅についてきたり、主人公の可愛い姿が見たいからと潜入用の衣装を魔改造したり。

    こんなのが補佐じゃいかんでしょという印象しかわきませんでした。

    終わりに

    「ここ最近出たファンタジー系のラノベで何かオススメある?」って聞かれたらとりあえずこれを薦めておけばいいよってくらいにはラノベの中でも万人に薦められる本作。
    癖がほとんど無く非常に読みやすい作品となっています。

    あとはカッコいい男性がいれば個人的には最高だった。