【感想】友達の妹が俺にだけウザいは良質な素材を闇鍋にして台無しにした作品
かんたん評価
オススメ度:★☆☆☆☆
とあるゲームアプリ製作チーム「5階同盟」。そのリーダーである主人公・大星明照は、チームごと某大手ゲーム会社に就職するために、社長の娘の偽彼氏を演じることになってしまう。
一方で友人にして5階同盟の一人、小日向乙馬の妹、小日向彩羽は主人公に好意を抱いており何かと絡んでくるが、当の主人公はウザ絡みしてくると勘違いしてしまい…。
・イラストが上手い
・章終わりに差し込まれる5階同盟のチャットが面白い
・話がごちゃごちゃしていて書きたいことがわからない
・“友達の妹”要素が薄い
・一番ウザいのは主人公
以下、本作についてのネタバレがあるのでご注意ください。
こんな作品
あらすじ
馴れ合い無用、彼女不要、友達は真に価値ある1人だけ。青春の一切を「非効率」と切って捨てる俺・大星明照の部屋に入り浸るやつがいる。妹でも友達でもない。ウザさ極まる面倒な後輩。親友の妹、小日向彩羽。「セーンパイ、デートしよーっ!…とか言われると思いましたー?」血管にエナジードリンクが流れてそうなコイツは、ベッドを占拠したり、寸止め色仕掛けをしてきたりと、やたらと俺にウザ絡みしてきやがる。なのに、どいつもこいつも羨ましそうに見てくるのはどういうワケだ?と思ったら彩羽のやつ、外では明るく清楚な優等生として大人気らしい。おいおい…だったら、どうしてお前は俺にだけウザいんだよ。
一見すると友達の妹との絡みを全力で描く学園ラブコメかと思いきや、実は同人ゲームを作っていくお話。
と思いきや、主人公スゲーをやるために色々問題が起きては解決していくお話。
ここが面白い
イラストが上手い
大手レーベルでは最近そんな酷いイラストになることは少ないですが、それにしてもトマリ先生のイラストは美しいです。
昨今、表紙イラストは綺麗なのに挿絵は落書きかと思うくらい手抜きなものに出会いがっかりすることが多かったのですが、本作は挿絵も非常に満足いくものになっています。
さすがトマリ先生!
途中に挿入される5階同盟のチャットが面白い
章末辺りにちょこちょこ差し込まれる5階同盟のチャット。
これが地味ながら面白いです。
納期迫ってるのに一向にイラストがあがってこないどころか、音信不通になるところとか妙にリアルな感じが「ゲーム作ってる」って感じで良いですね。
ここがちょっと気になる
話がごちゃごちゃしていて何を書きたいかわかりにくい
この作品、タイトルが『友達の妹が俺にだけウザい』というものなので、当然ながら友達の妹がメインテーマだと思うんですよ。
ところが、いざ読んでいくと“問題児が集まった5階同盟みんなでなんとかゲーム会社に就職する!”というもう一つのテーマが前面に出てきます。
「集合住宅に集まった一部の才能に特化したメンバーでゲームを製作する」というと僕は真っ先に“さくら荘のペットな彼女”が思い浮かびます。
この作品もヒロイン・真白を含めた寮のメンバーでゲーム制作をするという物語になっていくのですが、こちらは自活できない真白の世話を主人公がするという話が中心に書かれており、ゲーム制作というのはあくまでサブというのがはっきりとわかります。
一方の本作では、ゲーム制作の話が物語の中心となってしまっており、その中に友達の妹である彩羽が混じっているという状態になってしまっています。
これでは完全に主従が逆です。
この時点で本当は何を書きたいのかよくわからなくなってきているんですが、1巻では「不登校になっている従妹でありサブヒロインの真白が学校生活を送れるように世話をする」というお話が展開されていきます。
いやいや、これじゃあ友達の妹の話じゃなくて従妹の話じゃん。
作品タイトル『従妹で社長の娘が俺にだけ冷たい』でいいじゃん。
しかもこの従妹の世話をすることになるのもゲーム制作が関わってくるため、やっぱりメインはゲーム制作ということになってしまいます。
果たして作者が書きたかったことは何なのか、1巻を読んでもさっぱりわかりません。
これが2巻になるとようやく彩羽の話になってくるわけですがあまりにも遅い。
遅いうえにやっていることは嫉妬やあれこれで演技が上手くいかなくなるというもので、確かにウザいはウザいけれど正直「はぁー、めんどくせー女」という印象の方が強い。
これを読んでメインヒロインに魅力を感じるのはちょっとキツいです。
“友達の妹”要素が薄い
本作のメインヒロイン・彩羽は主人公の親友・乙馬の妹です。
どんな兄妹関係なのかと期待していたのですが、蓋を開けてみれば作品中で乙馬と彩羽が関わる描写はほとんど無く、基本的に主人公と1対1でしか絡みがありません。
例えば家に遊びに行くと見かけるとか、二人で遊んでいると絡んでくるとか“友達”を経由して関わってくるからこそ“友達の妹”という要素が輝いてくると僕は思うのです。
それが友達挟まずに直接絡んでくるなら、それはもう彩羽が“友達そのもの”じゃないですか。
章末に申し訳程度に主人公と乙馬が彩羽に関しての発言をしますが、本当に申し訳程度なうえに蛇足感が拭えません。
これに輪をかけて“友達の妹”要素を薄くしてしまっているのが、彩羽についている属性です。
彩羽は友達の妹であると同時に、主人公にとってはマンションのお隣さんであり高校の後輩でありゲーム制作メンバーの一員という属性までついてしまっています。
学校で絡んでくる様はどう見ても“後輩”であり、主人公の家に勝手に入っている様は“隣人”だからという感じであり、シリアスシーンでは“ゲーム制作メンバーの一人”という顔が出てきます。
確かに“友達の妹”という属性を持っているものの、作中ではそのような描写がほとんどなく、むしろ別の属性として描かれることの方が圧倒的に多いのです。
これもう“友達の妹”要素いらないよな。
矛盾しまくりな主人公の設定
物語序盤の学校にて、主人公に話しかけてきたクラスメイトに対して「こいつの名前は何だったかな」という描写があります。
クラス替えしたばかりじゃあるまいしクラスメイトの名前くらい覚えておけよと思わなくもないですが、これだけであれば問題はありません。
ところが、この次の章で以下のような描写があります。
そりゃ当然クラスの人間関係はすべて把握している。友達はオズくらいしかいないし、交友関係はゼロに等しいが、観察は常に怠らない。
この社会で『情報』は絶対の武器だ
おいおいおいおい!
クラスメイトの名前すら覚えてないやつが?
クラスの人間関係はすべて把握している?
『情報』は絶対の武器だ?
なにこの凄い矛盾!
フサフサなハゲって言われるくらい何言ってるかわからないぞ!
そしてクラスメイトの名前を覚えてない設定も人間関係に詳しい設定もどっちも物語において大して重要じゃない辺りが余計残念にしている感じがします。
なんか、文字増しのために付け加えた話で作品台無しにしちゃった感。
これに加えて主人公にはクラスでは存在感が薄いという設定があります。
美少女の後輩にしょっちゅう絡まれてて?
イケメンのクラスメイトと親友で?
ツッコミ体質の主人公が?
クラス内での存在感が薄い?
いやー、そりゃいくらなんでも無理があるでしょう!
作中でのキャラを見る限り比較的陽気で他人に気後れしない性格をしている主人公の影が薄いというのは流石に納得いきません。
そしてダメ押しの、主人公は効率を重視するとかいう設定。
作中で効率重視についての描写が購買でパン買う時に、個数をわざわざ口で言わずに指で表すとかいう、ギャグで書いているのかマジなのか判断に迷うものだけなのが酷いです。
なんというか、ちゃんとキャラのプロフィール作った? と疑問を抱かずにはいられません。
一番ウザいのは主人公
ウザ可愛いというと僕が思い浮かぶのは”やはり俺の青春ラブコメは間違っている”のヒロイン・一色いろはです。
まぁどちらかというと彼女はあざと可愛いと表現されることの方が多いですが、あざとさをわざと主人公・八幡にわかるように演じており「うぜ~」と思わせておきながら、ここぞという場面で寄り添ってきたり弱さを見せてきたりする様は正に“ウザ可愛い”であり、その魅力で数多のファンを獲得してきたことは流石と言うほかありません。
翻って本作のヒロイン・彩羽を見てみると、彼女の行動は一貫して主人公への好意をアピールしているだけであり、照れから誤魔化しているものの基本的に主人公が勝手にウザ絡みしてきていると勘違いしているだけです。
強いて言えば「きゃはっ」等の表現を文字にして見ると「ウザっ!」と思ってしまうのですが、ここにウザさを感じるのはキャラに対してというより文章に対して、つまりは作者に対してなので何か違う気がします。
更に言うと本作では1巻にしてメインヒロインを差し置いて主役になっているサブヒロイン・真白の方が出番の多さと厄介さでは彩羽を上回っており、彩羽にウザ可愛さを感じるなら真白にはより強いウザ可愛さを感じるのではないでしょうか。
まぁそんな比較など些細なことで、一番ウザいのは主人公なんですけど。
ヒロインのあからさまな行動を見て「俺のことが嫌いなんだろうか」とか思っちゃうのいくらなんでも酷いでしょう。
久々に重度の鈍感系主人公を見ました。
こうして彩羽のウザ可愛い設定はカルピスの原液たった一滴でコップ一杯分薄めたかのようなうっすいものになってしまったのでした。
終わりに
なんかそれぞれのキャラそのものはそんなに悪くないのに、闇鍋のごとく色々混ぜ合わせた結果何がやりたいのかわからなくなってしまった作品という感じでした。
ラブコメってヒロインとの距離をどうやって縮めていくかを楽しむものだと個人的には思うのですが、結局距離縮めたのって真白だけですよね。
メインヒロインは実は彩羽じゃなかった…?
この作者の本を読んだのは本作が初めてでしたが、他の作品を調べてみた感じだと有名どころの作品から設定を色々引っ張ってきて継ぎ接ぎした作品ばかりを出しているようですね。
“ガワ”だけは立派だけど蓋を開けてみれば中身も無ければ設定も何の意味も成していない、からっぽの物語がそこにはありました。