【感想】『嘆きの亡霊は引退したい』は斜め上展開を楽しむ最高に面白いコメディ

f:id:nekoma_doushi:20200112220738j:plain

かんたん評価

オススメ度:★★★★★
トレジャーハンターと呼ばれるいわゆる冒険者的な者たちが大暴れする時代。世界最強の英雄を目指すべく才能溢れる幼馴染たちとパーティーを組んだ結果、自身は無能にも関わらず周囲の評価だけはとんでもなく高くなってしまった男の物語。
運がいいのか悪いのか、次々と重大な事件を引き寄せてしまう主人公と、それに振り回されて尻ぬぐいまでされてしまう周囲の者たちによるコメディテイストな作品です。
思わずクスクス笑ってしまう、なんだか癖になる面白さがある名作!

以下、極力ネタバレを避けていますが、全くないわけではないのでご注意ください。

こんな作品

あらすじ

英雄になることを夢見て幼馴染たちと共にトレジャーハンターを目指していた少年・クライ。
才能を開花させ、どんどん強くなっていく幼馴染たちの一方で、クライは一般人に毛が生えた程度の実力しか身につかなかった。次第に危険度を増す冒険についていけずパーティー脱退を決意するクライだったが、幼馴染たちはそれを許してくれなかった。
「お前、特に役割ないんだからリーダーやれよ」

かくして仲間たちの目覚ましい活躍によって帝都トップクラスに登り詰めたパーティーのリーダーはその実力を誰にも悟らせないことから、いつしか『千変万化』の二つ名で恐れられることになる。

登場人物

クライ・アンドリヒ

本作の主人公。
帝都に3人しかいないレベル8の高レベルハンターにして正体不明『千変万化』の二つ名を与えられた男。
その実態はただのクソ雑魚で何の潜在能力も無い。おまけに頭も悪いので口から出る言葉はいつも適当というどうしようもない奴。口癖は「うんうん、そうだね」
常々ハンターを辞めたいと思っているが、周りがそれを許してくれない。

ティノ・シェイド

本作のヒロイン(?)
嘆きの亡霊のメンバーの一人リィズの弟子であり、ソロでレベル4に登り詰めた中々の実力者。
クライのことを「ますたぁ」と呼ぶのが特徴でなぜか彼を尊敬している一人。
クライの悪運に巻き込まれてしまうキャラの筆頭で、恐らく作中一番酷い目に合っている可哀そうな子。

アーク・ロダン

嘆きの亡霊のライバル『聖霊の御子』のリーダー。
『銀星万雷』の二つ名を持つレベル7ハンターで、かつての英雄ロダンの再来と噂されるほど。
強さで言えば帝都でもトップクラスな上にイケメンで礼儀正しい。クライに頻繁に厄介ごとを投げつけられても嫌な顔をしないという懐の深さを持つ完璧キャラ。

リィズ・スマート

嘆きの亡霊のメンバーの一人で『絶影』の二つ名を持つ盗賊。
非常に気性が荒く喧嘩っ早いという致命的な欠点があり、彼女を止められるのは嘆きの亡霊のメンバーだけ。
幼馴染メンバーみんな大好きだけど、その中でもクライのことが特に大好き。

シトリー・スマート

嘆きの亡霊のメンバーの一人で『最低最悪』の二つ名を持つ錬金術師。
リィズの妹。一見すると大人しく常識人のような振る舞いをするが、手段を選ばないことから実はリィズよりヤバい人。

ガーク・ヴェルター

探索者協会の支部長で元レベル8ハンターの強者で超強面。
クライが巻き起こすあれこれで迷惑を被っている苦労人で、よく怒鳴り散らしている。
あれこれ言ってはいるが実はクライのことを信頼している(その信頼的外れですよ…)

嘆きの亡霊とは

嘆きの亡霊(ストレンジ・グリーフ)は以下7名のメンバーで構成されている帝都で最も勢いのあるパーティーで、結成してわずか5年でリーダーのクライがレベル8にまで成り上がっている。

リーダー:クライ・アンドリヒ
剣士:ルーク・サイコル
聖騎士:アンセム・スマート
盗賊:リィズ・スマート
魔術師:ルシア・ロジェ
錬金術師:シトリー・スマート
盗賊:エリザ

ちなみにハンターのレベルは10が最高で世界に3人しかいない。
メンバーはエリザを除き幼馴染で結成されている。
クライの不運と適当な発言によって地獄のような日々を過ごした結果、凄まじいまでの実力を身に着けた。
ついでに酷い目に遭うのはパーティーの育成のためと都合の良い方へ勘違いしてしまっている。

笑っているようでどこかこの世を嘆いているような骸骨の仮面がパーティーシンボルで、この仮面と『嘆きの亡霊』というパーティーネームからレッドチームと勘違いされることも。ちなみにパーティー名もシンボルもクライが考えたもの。

ここが魅力!

f:id:nekoma_doushi:20191202210135j:plain

斜め上過ぎて予測不能なご都合展開

あらゆる事件に先回りし、事態を収束させるのに必要な人材を派遣、そして核心に迫る助言を残していくというレベル8のハンター。
「クライ・アンドリヒには未来が見えている」
それがギルド長をはじめ一部の者たちが信じている主人公の能力。


だがしかし、真実は運が悪い上に頭も悪いせいで向かう先々で事件巻き込まれてしまっているだけという。

何気ない行動や発言が次々フラグになっていき、その騒ぎに敵も味方も巻き込まれていく様が痛快なコメディ作品です。
なぜかクライだけは痛い目に遭わないご都合展開なのですが、結果としてその全てがクライの手腕によるものだと勘違いされてしまうわけでして。ハンターとしての評価は上がるのに、みんなが大変な目に遭うのを楽しんでいるクズとして周囲からの好感度は下がっていく残念な感じもたまりません。

個性豊かなキャラクターがたくさん!

内容が個性的なのもさることながら、この作品はキャラクターも大変個性的です。
主人公からして何の才能もない上にめんどくさがり屋でおまけに多額の借金を仲間にしているというクズっぷり。
嘆霊のメンバーも職業こそは剣士とか魔法使いとかよく見るものですが、その性格とか行動はとてもじゃないけれど他作品では見たことないような者たちばかりで、短気で騒がしい盗賊から体長3m越えで厳ついけれど寡黙で心優しい守護騎士までさまざま。

個人的に気に入っているのが、敵キャラクターの方がしっかりしているところ。
嘆霊メンバーが「普通に考えたらそんなことしないよね」ということを平気でやってくる中、敵キャラは「普通に考えたらこういう行動とるよね」という常識的なことをしてくれるので見ていてほっこりします。
敵キャラの方が常識人とかこの作品どうなってんだ!?

web版と書籍版の違い

本作は小説投稿サイト「小説家になろう」で連載されている作品を書籍化したものになります。
書籍版がどのようになるかは作品によって大きく異なるのですが、本作に関して言えば以下のような違いがあります。

・物語の流れはそのままに文章がブラッシュアップ
・ところどこに追加の描写も
・巻末に書き下ろしの追加エピソードが!

追加エピソードはそれほど珍しくはありませんが、文章をここまで書き直すのは中々珍しいですね。
web版は細切れの作品として読みやすく作られているのですが、その反面、話と話の間に省略されてしまっている描写があるのが読んでいて気になります。
書籍版は全体の話の流れはそのままに“小説として読んで”面白くなるように書き直されています。

これから読むのであれば断然、書籍版をオススメします!

終わりに

ということで『嘆きの亡霊は引退したい ~最弱ハンターによる最強パーティ育成術~』の紹介でした。
コメディ作品の小説なので読んでもらわないとなかなか面白さを伝えられないのが難点ですが、実はコミカライズもされており、既に1巻が発売されております!
マンガからの方が入りやすいという方はこちらもどうぞ。
コミック版も絵がめちゃくちゃ良いのでオススメです!