【感想】さよなら異世界、またきて明日 は少し切なくも心温まる一期一会物語

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かんたん評価

オススメ度:★★★★☆
魔力の飽和によって人は結晶化して消えてしまい、白い砂漠に呑まれていく。そんな異世界に迷いこんでしまった少年・ケースケと、道中で出会ったハーフエルフの少女に・ニトが織り成す冒険ファンタジー。
旅の先々で出会う人たちにお世話になったりお節介をやいたり、そしてまた別れて…。と、切なさもありながら心温まるエピソードが魅力の作品!

以下、極力ネタバレを避けていますが、全くないわけではないのでご注意ください。

こんな作品

あらすじ

「わたしと、取引、しませんか」
魔力が過剰に溢れ、滅びかけた異世界で出会ったハーフエルフの少女・ニトから持ち掛けられた依頼。
それは、彼女の探し物を手伝って欲しいという内容だった。

人が結晶に変わり、街も森も消えゆく死にかけの世界。
現代世界から、この世界に迷い込んだ高校生のケースケは、元の世界に帰る術を探すため、蒸気自動車の助手席にニトを乗せて、生き残った人々との出会いや別れを繰り返しながら、旅をする。

その旅の果てにある、明日を迎えに行くために。

[引用:ファンタジア文庫特設ページより]

登場人物

ケースケ

突如異世界に迷いこんでしまった男子高校生。
元の世界に帰る方法を探すために、事情を知っていそうな黒服の男を探している。
年のわりに落ち着いた雰囲気をもっているが、時には相手の事情を考慮せずにずかずかと踏み込んでいくといった子供っぽいところも。

ニト

絵を描くことが好きなハーフエルフの少女。
魔力欠乏症という病気によりずっとベッドの上で生活をしていたため世間知らず。
皮肉にも世界が滅びる原因となった魔力飽和によって普通の生活をできるようになった。
母親の残した手帳に描かれている“黄金の海原”を探すために旅にでている。


ここが魅力

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寂しい世界での心温まるストーリー

異世界転移ものの作品は数多くありますが、その世界がもう取返しのつかない終焉に向かっている、けれども内容は希望の話というのはなかなか珍しいのではないでしょうか。というか僕は初めて見ました。

魔力飽和によって多くの人が結晶化し、そして消滅していく世界。お金など最早意味がなく、働く必要の無くなってしまった世界でそれでもあえて仕事を続ける者、旅に出る者、あるいは誰と関わるでもなく時を過ごす者。
世間知らずでお節介焼きなケースケ達は、そんな彼らを時には助け、時には助けられたりしながら、終わりに向かう前の世界の思い出に触れていきます。

終わりに向かうしかないという寂しさ漂う世界で、触れる思い出はどこまでも暖かく、なんだかノスタルジックな気分にさせてくれます。

丁寧なキャラの掘り下げ

ライトノベルにしては登場人物が少なめなこの作品、その代わりに意味のないキャラというのが一切登場しません。
誰もが終わった世界でも生き続けるための何かを持っていて、ケースケ、あるいはニトの価値観を大きく動かす重要人物です。
そんな彼らがどんな悩みを抱えているのか、どんな信念を持って生きているのか。そういった細かい情報が、作品を読んでいるだけで自然とわからせられてしまいます。

大事なのはいわゆるキャラの設定を説明されているわけではなく、何気ない会話やしぐさによって表現されているというところで、自然とキャラの掘り下げがされているのは素晴らしいですね。

どこか楽しそうなキャンプ

ケースケは元の世界に戻るカギを探すために、ニトは黄金の海原を見つけるために旅をしている本作ですが、人のほとんど残っていない終わりかけの世界で夜を過ごしているかと言えば、キャンプです。キャンプをしています。

とあるゆるいキャンプ漫画の影響か、はたまた別のきっかけがあったのかは知りませんが、最近流行ってますよね、キャンプ。

主人公のケースケは異世界にやってくる際にキャンプ用品を持った状態だったために、テントやランタンなどわりと現代的なキャンプ内容になっているのですが、だからこそリアリティのあるキャンプが描写されており、読んでいるだけでなんだか自分もキャンプをやりたくなってきてしまいます。

まさか、異世界ファンタジーものの小説でキャンプに関する細かい描写があるとは夢にも思いませんでした。

ここがちょっと気になる

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盛り上がりに欠ける

ケースケがやってきた場所には魔力があり魔法がある異世界だったのですが、いわゆる魔法らしい魔法が登場することはありませんし、化け物が襲ってくることもありません。
バトル要素は皆無ですし、この世界をどうこうしようと奮闘することもありません。
コンセプト的に仕方ないところではあるのですが、物語に派手さが無く、全体的に盛り上がりに欠けます。

とは言え、そうした空気感こそがこの作品の魅力にも繋がっているため、一概に悪いとは言えないと僕は思っていますが。

異世界らしさが薄い

この作品に登場する異世界は、過去にも主人公の世界から人が来ているために、よくある中世風のものに比べると文明が比較的発展しており、車やバイクなんかが普通にあったりします。
おまけに主人公はキャンプセットを持ち歩いているために、登場する品々からあまり異世界らしさを感じません。

また、この世界には魔力や魔法があるわけですが、肝心の魔法もほとんど登場することはありません。

特に1巻に関しては普通の人間しか出てこないので余計に異世界らしさは薄いです。
2巻になると獣人が出てきたり一応魔法が登場するので多少は異世界らしさが増すのですが…。



終わりに

バトルものでもラブコメでもない物語というのは、ちょっぴり人を選んでしまうかもしれません。
でも、時には心温まるお話が読みたいなぁなんてこともあるでしょう。
そうした時に一度手に取ってみてはいかがでしょうか。